【2017春・活動の記録】


空耳図書館のはるやすみⅢ・おやこのじかん

「はるのはじまり、いのちのたまご」

開催日2017年3月20日(春分の日)

参考図書:『世界のはじまり』(バッジュ・シャーム/ギーター・ヴォルフ タムラ堂)、『すーびょるーみゅー』(土佐信道・絵、谷川俊太郎・詩 クレヨンハウス)
あそぶひとaotenjo

       (外山晴菜/振付家・ダンサー、橋本知久/音楽家)
空耳図書館ディレクター:ササマユウコ(CONNECT/コネクト代表)

イラスト・チラシデザイン:Koki Oguma  協力・撮影 :武田里美(aotenjo制作)

平成28年度子どもゆめ基金助成事業・読書活動

主催:芸術教育デザイン室CONNECT/コネクト


♪昼と夜が同じ長さになる春分の日。第3回「空耳図書館のはるやすみ〈おやこのじかん〉はるのはじまり、いのちのたまご」がうららかに開催されました。

 この「空耳図書館のはるやすみ」はいわゆる読み聞かせの会ではなく、’ちょっと不思議な読書会’と名付けた実験的な場を大切にしています。身体や音、即興性と柔軟性を備えたアーティストとともに、文字のない絵本やオノマトペの絵本、読み聞かせが’むずかしい’と感じる絵本、モノとしてもめずらしい絵本等をご紹介して、その世界を自由に旅する「ささやかだけれど忘れがたい時間」をおやこの皆さんと一緒に過ごすのです。

 初回から3年(実質7回+2回スピンオフ)にわたって一緒に旅をしているaotenjoのおふたりは、この「空耳図書館のはるやすみ」がきっかけで誕生したクリエイティブ・ユニット。身体と音と言葉を取り入れたちょっと不思議な彼らの即興パフォーマンスは、絵本や空耳図書館そのものの可能性を自由に豊かに広げていきます。今回はそこに(偶然ですが)TARA Booksのレジデンス経験をもつイラストレーターのKokiOgumaさんが、チラシのビジュアル面からも空耳の世界を楽しく広げてくれました。

【参考図書『世界のはじまり』について】

この絵本は「ゴンドアート」の手法で描かれています。深い森の中で暮らしていた中央インドのゴンド族が開発で森を追われ農民となり、仕事を求めて都市に出るという暮らしや時代の変化の中で、森の民としての記憶を忘れないために家の壁や床に図案を描き残したのがゴンドアートの始まりです。その絵は主に女性たちの手で描かれました。

 ゴンドには創世物語から日常生活までを扱った口承文学が数多く残されています。その文学を伝える吟遊詩人でもあるバッジュ・シャームが自ら物語を編み直し、日々の暮らしと共にある宇宙観を表現したのが、この『世界のはじまり』です。ここには特定の神様は登場しません。暮らしの中にこそ世界のはじまりがあり、私たちが生きる理由がある。その「はじまり」のイメージとして「卵」が象徴的に描かれています。卵型にくりぬかれたケースは日本のオリジナル。表紙には「まだ生まれていない」魚が描かれています。循環する人生の時間。いずれひとつの輪となる「誕生と死」のつながりが、この絵本の根底に流れている哲学です。(引用出典:タムラ堂)

【絵本として、モノとしての魅力】

この絵本は南インドの工房で一冊づつ手作りされています。テクノロジーと手仕事が調和した、まさに未来型のモノ作り。古布(木綿や麻)を原料に漉かれたざらっとした手触りの紙に、一枚づつシルクスクリーンで手刷りする。製本も表紙も丁寧な手の仕事で、モノとしての魅力も感じます。また絵本を中心としたコミュニティ・スペースや、アーティストのレジデンス施設もあるTARA Booksのオフィスの在り方には、社長をはじめ女性が中心となった柔らかな場づくりを感じます。空耳図書館では、誰もがフェアな関係性を築きながら世界的に注目される絵本をつくり続けているTARA Booksの「しごと」もご紹介させて頂きました。11月には板橋美術館でTARA Booksの仕事を紹介する展覧会が開催される予定だそうですので、お楽しみに。(3月18日信愛書店en=gawa開催 田村堂さんのギャラリートークより)

♪絵本を通して生まれるもの。
 大人が子どもに一方的に「読み聞かせ」るだけでなく、子どもと大人の間に柔らかで自由な関係性を生みたいと思います。小さな子どもと日々を過ごす子育て期は、思い通りにならず大変なこともたくさんありますが、大人が少しだけ柔らかな視点を持つことで、子どものいる世界は驚きや発見に満ち輝き始めます。

 「空耳図書館のはるやすみ」では子どもの、人間の感情の基本である「喜怒哀楽」も大切にしています。ですから子どもたちは泣いても笑っても褒められる。「指導」ではなく、参加者が自然とそうなるように時間が流れていきます。飽きてしまったら輪を抜けて休んでいい。部屋に仕掛けられた「不思議なもの」を発見したら、それと遊んでいても構わない。ハプニングは新たなアイデアへとアーティストが掬い取り、次の時間へとつなげていきます。
 この日のaotenjoの時間でも、いつの間にか絵本の中のさかなになったり、たまごを育てていたり、パパもいっしょに声を出して絵本を読んでいたりする。子どもはのびのびと、大人たちも安心して自由になれる。一冊の絵本が「芸術の入り口」であると気づく瞬間が生まれていました。

後半に朗読体験をした不思議な絵本『すーびょるーみゅー』も、実は『世界のはじまり』と同じ「世界の創生」がテーマの絵本であることに気づきます。

♪正解を求めずに。

aotenjoのふたりはプロのアーティストです。ふだんはそれぞれに舞台で踊ったり演奏をしたり、振付を考えたり曲を作ったりしています。実力派の彼らでも、「空耳図書館のはるやすみ」では実はハラハラドキドキ、この時間に全力で向き合って下さいます。なぜならここでの唯一の約束事が「プログラムを固めないこと」だからです。
 小さな子どもを相手に、大人が考えたプログラムを「決めた通り」に進めていくことはどこか窮屈です。その場に起きたハプニングや涙も笑いもすべて絵本の世界へとつなげていくこと。いま目の前で起きていること、生まれたことを糧にすること。絵本(芸術)がそれを許してくれる。その体験を参加者の皆さんと共有すること。それは「生きる」ことだと思うのです。
 「楽しいだけでいいか?」という問いは教育や仕事の現場につきものです。しかしそれならば、心の底から本当に「楽しい」と思える場や時間が、この世の中にどれだけあるでしょう?と考えます。「楽しい」を知らずに大人になることは良いことなのでしょうか。

  絵本の読み方はひとつではありません。しかも無駄なこと、くだらないこと、意味がわからないこと、不条理なこと、宇宙のこと、いのちのこと。絵本には大切なことがたくさん描かれています。’教育的な正解’を求めずに、小さな芸術の入り口として、子どもも大人も自由に楽しんで頂けたらと思います。その上で絵本をつくった人たちが込めた想いや願いとは何か。そこに耳をすまして、一冊の絵本との「出会い」を大切にして頂けたらと思うのでした。
 春分の日にご参加頂いたおやこの皆様、ありがとうございました。「あの時間はいったい何だったのか?」と時どき思い返して頂けたら幸いです。ちょっと不思議な読書会「空耳図書館のはるやすみ」。
またどこかでお会いしましょう♪

2017年3月吉日 

空耳図書館ディレクター:ササマユウコ 

 

海辺で拾った貝殻、ペットボトルや折り紙、星のかたちのヒトデと鈴、クッキーやナッツの缶、道端の石ころや公園で見つけた木の実・・・身近にあるものと絵本の世界、「暮らしと芸術」を切り離さないことも大切にしています。

 

TARA Booksの新しい絵本『太陽と月』。タムラ堂より5月に出版される予定です。お楽しみに!


◎空耳図書館に関するお問合せは芸術教育デザイン室CONNECT/コネクトまでメールでお願いいたします。